野生のニホンザルを自然に近い環境下で観察できる「地獄谷野猿公苑」。山ノ内町の志賀高原を源とする横湯川の渓谷に位置し、1年の約3分の1が雪に覆われ、厳しくとも豊かな自然が広がる。
冬季には「温泉に入る野生のサル」を見られる場所として、近年は“Snowmonkey Park(スノーモンキーパーク)”の名でも知られるが、公苑では1年を通して四季折々のサルたちの姿を観察することができる。
4月終わりから6月頭にかけては出産シーズン。生まれたてのかわいい赤ちゃんザルたちに出会える季節だ。
夏にかけては赤ちゃんザルが子ザルへと成長していく子育てのシーズン。苑内の至るところで、子ザル同士、元気よく遊んでいる姿が見られる。
グリーンシーズンであれば、公苑に向かうルートは2つ。上林温泉の専用駐車場から約2km、徒歩30分の遊歩道を歩くコースと、地獄谷駐車場から階段道を約15分歩くコースだ。ゆっくりと自然散策を楽しめるのは上林温泉からのコースで、足腰に自信があるなら地獄谷駐車場からのコースがおすすめ。いずれのコースも10月半ば頃、紅葉の見頃を迎えるため、あわせて楽しめる。
雪が降り積もる頃になると「ニホンザル=Snow monkey」と呼ばれるに相応しい風景となる。
冬季は地獄谷駐車場が閉鎖されるため、上林温泉の専用駐車場からのコースのみとなる。山道の未舗装路を30分ほど歩く必要があり、滑りやすい道のため、靴の滑り止め装具が必須だ。
こうした独特の野猿公苑が生まれたきっかけは、1952年、志賀高原に日本初のスキーリフトが設けられてからのスキー場開発にある。生息地を追われた野生のサルにより、ふもとでは農作物が食い荒らされる被害を受けるように。
そこで被害防止とサルたちを観光資源として活用することを目的として、地元・長野電鉄の職員が、地獄谷温泉の一軒宿「後楽館」と長野電鉄山岳部の協力を得て餌付けに取りかかった。
そして、構想から約5年の1962年。野生のサルの餌付けに成功し、1964年に「地獄谷野猿公苑」が開苑した。
野生のサルたちは、1日の大半を山々を移動しながら採食行動に費やしている。だが、公苑にいる時間が多くなると、エサを待つ間にのんびりと過ごす時間ができ、その中で子ザルが「後楽館」の露天風呂に入ることを覚えた。
次第に仲間のサルも温泉に入るようになり、その姿が「朝日新聞」に掲載されると、全国的に地獄谷のサルが注目されるようになったという。
衛生的観点から、人とサルの温泉を分け、公苑内には「サル専用露天風呂」がある。開苑以降、観光客だけでなく、多くの研究者や写真家も訪れている。
人とサルとの適度な距離感は、約70年前から続く地元民の地道な努力のもとに成り立っているのだ。
長い年月をかけ、「サルと人間の共生」の関係を作り上げてきた「地獄谷野猿公苑」。手が届きそうなほど間近で観察ができ、人に関心も示さず逃げもしないという不思議な距離感の体験を存分に味わいたい。
なお、公苑は野生動物の生息環境である山の中にあるため、「野生動物の住処に赴く」気持ちで来苑しよう。
険しく切り立った崖に囲まれた公苑横には、絶えず噴煙が上がる大噴泉も。これが「地獄谷」の名の由来で、国の天然記念物に指定されている。
秘湯の趣が漂う「後楽館」では12時から15時まで日帰り入浴も可能。サルの観察とあわせて楽しんでみては。
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