山ノ内

蕎麦通も唸る北志賀高原の名店「石臼挽き蕎麦香房 山の実」

2023年06月06日 更新

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北志賀高原の名店「石臼挽き蕎麦香房 山の実」

この記事を書いた人

ライター
島田浩美

長野県飯綱町生まれ。信州大学卒業後、2年間の世界一周旅を経て、長野市の出版社に勤務。2011年、同僚デザイナーと「旅とアート」がテーマの書店「ch.books」オープン。趣味は山登り、特技はトライアスロン。


雲海スポットとして近年評判の北志賀高原。絶景の展望テラス「SORAterrace(ソラテラス)」の麓、竜王スキーパーク内にあるのが、蕎麦好きの間ではよく知られる名店「石臼挽き蕎麦香房 山の実」だ。グルメサイトでも高評価を得ている人気店である。

外観
営業は4月末から11月までの週末と祝日のみ。冬場はスキー場のゲレンデレストランになるため、新蕎麦が出回る時期は営業しないという独自のスタイルながら、蕎麦のおいしさを求めて、遠方からも多くの食通が山奥の店まで足繁く通う。

お通し、手挽きそばがき
おすすめは、コース料理の「山の実」(2,750円)。季節のお通しと手挽きそばがき、生粉(きこ)打ち蕎麦、石窯焼きのそばピッツァがセットになったボリューム満点の看板メニューだ。

生粉(きこ)打ち蕎麦
生粉(きこ)打ち蕎麦とは、玄蕎麦の黒い外皮をむいた丸抜きの蕎麦の実を製粉し、挽きたての蕎麦粉と冷水のみで打った十割蕎麦のこと。毎朝、その日使う分だけ電動石臼で自家製粉している。

細打ちの麺ながらコシがあり、キリッと角が立ってツルツルと喉越しがよく、緑がかった蕎麦特有の青っぽい香りと完熟した甘みのバランスが抜群だ。

蕎麦の実
おいしさの秘密は、蕎麦の実の鮮度にある。収穫して間もない皮つきの玄蕎麦をそのまま真空状態にし、約2℃の保冷庫で低温保存しているのだ。

蕎麦は蕎麦粉と水だけのシンプルな材料で作られるからこそ、素材である玄蕎麦の保存には細心の注意を払っているという。一般的に夏は蕎麦粉の質が落ちると言われるが、この保存方法であれば収穫時の新鮮な味わいをそのまま保つことができる。

製粉
また、最大のこだわりが製粉である。2台の電動石臼は山梨県の石材屋に特注した安山岩のもので、粗挽きと細か挽きのブレンドのバランスを追求し、コシを出しているという。仕入れた蕎麦の味に合わせて製粉具合を調整しているそうで、挽き方だけで全く別ものの蕎麦にすることも可能だとか。この製粉方法こそ、店主の数土 哲さんが自信を持って手がける技術だ。

こうして出来上がったこだわりの蕎麦をしっかりと茹でることで、粗い粒子によるモチモチ感と粉が弾けるような食感が生まれるという。

蕎麦
「ワインを飲む前に色や香りを楽しむように、蕎麦も、まずは見た目や香りを堪能した後、何も付けずに蕎麦本来の味を楽しみ、その後、少量の塩で味わってから、つゆで召し上がっていただくといいですね」と数土さん。

何も付けずに味わうと、一口食べただけで豊かな蕎麦の香りが広がり、歯ごたえや粘りがしっかりと感じられる。塩をつけると甘みが立ち、鰹の出汁が効いたつゆをつけると蕎麦がキリリと主役感を増して味わい深い。たとえ蕎麦が伸びても、これまた違った味や香りが楽しめるのが生粉打ち蕎麦なのだ。

蕎麦粥
なお、コース料理の最初に出てくるのは季節のお通し。春は選りすぐりの山菜、夏は地元の野菜、秋は蕎麦粥を提供している。

写真は小松菜と黒あわび茸を使った蕎麦粥で、蕎麦の実の弾ける食感と秋の味覚が楽しめる。

手挽きそばがき
続く「手挽きそばがき」は、手動の石臼で粗く挽いた蕎麦粉と水だけで掻いたもの。青緑色で、手挽きならではの粗さによるザラッとした舌触りと、抜群の弾力やモチモチ感が魅力だ。しっかりとした蕎麦の旨みと甘みも感じられ、添えられた塩と山葵をつけて味わうと、香りも甘さがより際立つ。

生粉打ち蕎麦
「生粉打ち蕎麦」のおいしさは先述の通り。噛むごとに甘みと香りが口の中に広がり、食べ終わりたくないと感じてしまうほど。しかし、喉越しのよさからツルツルと調子よく食べ進めてしまう。

蕎麦湯
また、濃厚でトロトロの蕎麦湯も特筆すべき味わい。蕎麦の茹で湯ではなく、あえて料理の一品として別で作っており、この蕎麦湯だけでも蕎麦の深みを感じる。

ピザ
最後に提供される石窯焼きのそばピッツァは、生地に蕎麦粉を使用し、300℃の薪窯で香ばしく焼き上げたもの。5種類から選べる。写真は、信州味噌とチーズ、ねぎ、えのき、蕎麦の実、山椒を使った「須賀川そばピッツァ」だ。

石窯焼きのそばピッツァ、数土さん
薄焼きのカリカリタイプなので、コース料理の最後でもさくっと食べられ、噛みごたえのある生地がまた蕎麦の滋味深さを感じさせてくれる。

生粉打ち蕎麦やそばがきとはまた違う、新感覚の蕎麦のおいしさで、口コミでも好評だ。テイクアウトできるのも嬉しい。

数土さん
数土さんは富山県出身。妻の美保さんとの結婚を機に長野県に移住し、北志賀高原にある美保さんの実家が営むホテルやゲレンデレストランを手伝うようになった。

店内
そうしたなか、減少するスキー客の対策として、ゲレンデレストランが使用されていない春から秋にかけてなにかできないかと考えるように。もともと北志賀高原が蕎麦の産地であること、また、レストランにピッツァを焼くための石窯があったことから、この石窯を使って蕎麦粉のピッツァを作れないかと思い描くようになったのだ。

石窯
一方で、富山県は米文化であり、蕎麦になじみがなく、おいしさもわからなかったという数土さん。そこで、本当においしい蕎麦を求めてさまざまな店を訪ねるなか、出合ったのが、長野市の飯綱高原にある蕎麦の名店で“蕎麦通の聖地”とも言われる「ふじおか」だった。

蕎麦
同店で味わった蕎麦の奥深さに感動し、「自分も蕎麦粉と水だけで打った蕎麦の味一本で来店してもらえる店を作りたい」と、蕎麦打ちに励むように。「本場の職人のもとで修業をすると、師匠の味を変えるのに抵抗を感じてしまうに違いない」との思いから、独学で蕎麦打ちを研究した。

そして、試行錯誤の末、自分ならではの蕎麦打ちにたどり着いた。その打ち方とは、数土さんいわく「ハウツー本に載っている手法とはかけ離れた、タブーだらけのやり方」だそう。

店内
しかし、おいしさは徐々に口コミで広がり、今では予約必至の人気店に。土・日曜と祝日の営業で、金曜日と月曜日は予約があった場合にのみ営業する予約営業日となっている。

メニュー
蕎麦の仕入れは数土さんの地元、富山県の南砺市蓑谷の契約農家から。もともと米農家で、その米のおいしさに魅了されて蕎麦も作ってもらうように依頼したそう。「生産者さんを信頼して使っています」と数土さん。ほかに、地元の北志賀高原下須賀川産の蕎麦も使用しているという。

蕎麦
また、一般的に新蕎麦はおいしいとされるが、数土さんによると「弾ける感じはあるが味が安定していない」とか。そのため「石臼挽き蕎麦香房 山の実」では、新蕎麦を仕入れても1ヵ月ほど置き、安定させてから一気に真空にしている。

そして、春の営業再開後に保冷庫から取り出して使い始め、営業が終わる秋に向けて玄蕎麦の甘みがどんどん増しておいしくなっていくそう。打ち方だけでなく、蕎麦の実の見極めもすべて独自の視点によるのだ。

蕎麦乾麺
2021年にはコロナ対策として、契約栽培の蕎麦粉を使ってオリジナル乾麺の発売もはじめた。店で提供している麺と形状が異なり、風味も若干弱まっているものの、おいしさは数土さんの折り紙付き。特に茹でた後の蕎麦湯のおいしさは納得の味わいで、店で提供しているものと遜色ないおいしさでリピーターも多い。

店頭に並ぶとすぐに完売してしまうそうで、在庫があればラッキー! ほかでは販売していないため、見かけた場合はお見逃しなく。

店内
なお、12月からのゲレンデレストランの営業では、座席を全て入れ替え、席数は倍になるのだとか。提供する食事もラーメンやカレーといった、いわゆる“ゲレ食”で、ピッツァも小麦粉を使った生地になる。

景色、緑や青空
こうして春になると店内の装いも一新し、数土さんはまた新たな気持ちで蕎麦打ちに向かうという。毎年が試行錯誤の連続だそうで、常に向上心あふれる「石臼挽き蕎麦香房 山の実」の蕎麦。だからこそ、営業日を目指し、わざわざ食べに行く価値があるのだ。

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■石臼挽き蕎麦香房 山の実

住所長野県下高井郡山ノ内町夜間瀬11700-315 北志賀ホリデーイン内(北志賀竜王高原)
営業時間11時30分~14時30分
(第1部11時30分~、第2部13時~)
定休日月~木曜
※土・日曜、祝日のみの営業。金曜と月曜は予約営業のため、詳細は公式ホームページを要確認
駐車場無料(30台)
問い合わせ先0269-33-7577(電話予約は8時~20時)
⇒公式サイトはこちら

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