飯山市街地から北西へ車で約20分。新潟県境の富倉峠へと続く富倉地区は豪雪地帯ゆえに小麦が採れず、古くから山々に自生する植物・オヤマボクチ(ヤマゴボウ)の葉の繊維をつなぎに使った「富倉そば」が食べられてきた。
「かじか亭」の店頭に置かれているオヤマボクチの見本オヤマボクチとはキク科に属するアザミの一種。葉の裏に生える繊維が火起こしの際に火口(ぼくち)として使われていたことが語源だ。戦国時代には上杉謙信も火縄銃の火種として活用していたと言われる。
この葉の繊維を柔らかくなるまで煮て、天日干しで乾燥させることを何度も繰り返すが、これほど手間ひまをかけても1kgの葉から取れる繊維はわずか4~5gほど。量産できないことに加え、交通の不便な富倉地区でしか味わえなかった希少性から、一部では“幻の蕎麦”として知られている。
特徴は、ツルツル、キュッキュッとした独特の食感で、みずみずしくてのど越しが良いこと。薄いのにコシが強く、繊維が蕎麦本来の風味を損なわないため、香りが高いのも魅力だ。飯山市の選択無形民俗文化財に指定されている。
その「富倉そば」をご当地である富倉地区で食べられるのは、今では「かじか亭」1軒のみ。富倉小学校の跡地を利用した趣のある店内に、テーブル席と座敷席が並ぶ。
現店主は6代目の前澤克也さん。飯山市出身で、もともとは市内の蕎麦屋で二八そばを打っていたが、縁あって「かじか亭」で「富倉そば」を打ちはじめた。
毎朝、温度と湿度を見て手打ちする蕎麦は先代から変わらぬ味わい。色が濃く、麺が長いのも特徴だ。これは「お客さまとのお付き合いが長く続くように」との願いも込められているとか。つゆは混合削り節と鰹節を使ったもので、蕎麦の風味に負けない香り高い味わいがよく合う。
この味を求めて県内外から多くの人が訪れ、開店前から行列ができる日もしばしば。土日は13時30分頃までに完売してしまう日も多いことから、早い時間の到着がおすすめだ。
さらに、「富倉そば」と並ぶ富倉地区の郷土食「笹ずし」も提供。笹の葉の上に酢飯をのせて具材や薬味を盛りつけたもので、上杉謙信が富倉峠を通って川中島の合戦に出陣する際、富倉地区の住民が差し出したのがはじまりとされる。
「かじか亭」では山菜やクルミ、大根の味噌漬けなどを細かく刻んだものと、錦糸玉子、紅生姜が具材に使われている。
「笹ずしセット」なら、ざるそばに笹ずし2枚が付き、ふたつの伝統食を同時に楽しめるその他メニューには「いもなます」などの飯山市の郷土料理もこのほか、開店当時から変わらぬ人気メニューが「天ぷらバー」だ。なんと一人300円で天ぷらが食べ放題というお得なもの。自家栽培の野菜や山の恵みを中心とした季節の素材の天ぷらは種類も豊富。春は山菜、秋は柿などの旬の食材も登場する。地産地消にこだわり、きゅうり以外は何でも天ぷらにできるとか。添えられた特製のロースト塩も味わい深く、これまたよく合う。
以前は、大皿に盛られた天ぷらからセルフサービスで好きな具材や量を取り分けるビュッフェスタイルだった「天ぷらバー」。コロナ禍以降は皿に盛り合わせた天ぷらが提供されるように。
好きな素材は自由におかわりができる。ひとりにつき300円なので、注文する場合は食べる人数分のオーダーを。
左:ざるそば並(900円)、右:特盛(1,500円)オヤマボクチを使った蕎麦は北信濃のほかの地域でも見られるが、個人的に「かじか亭」の蕎麦はコシが強くて弾力があり、喉越し、香りの高さともに好みの味わいだ。
しかし、店主の前澤さんいわく「食の好みは人それぞれ」。特に蕎麦は嗜好性が強いため、おいしさの評価も十人十色。だからこそ、一般的な蕎麦とは一線を画す「富倉そば」は賛否両論あるのだと言う。ゆえに、ハマる人はハマるはず。ぜひ独特の味わいと香りをご当地で楽しんでほしい。
コシが強い「富倉そば」は冷水で力強く締めても切れることがないちなみに蕎麦粉は100%国産で、11月上旬からは地元、富倉地区産の新蕎麦が味わえる。ただし、雪深い12月上旬から3月中旬までは冬季休業となるため、ご注意を。
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■かじか亭
住所 | 長野県飯山市富倉1769 |
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営業時間 | 11時~15時(そばがなくなり次第終了) |
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定休日 | 火曜、冬季休業(12月上旬~3月中旬) |
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駐車場 | 無料(50台) |
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問い合わせ先 | 0269-67-2500 |
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